変えることと変えないこと|伝統を守り、伝統を生かす

変えることと変えないこと
守るべきものと、変えるべきもの。
その判断が、最も難しい。
四代目を継いでから、私はこの問いと向き合い続けてきました。
曾祖父の味を守るべきか。
時代に合わせて変えるべきか。
その葛藤の中で、私は何度も迷いました。
祖父はよく言いました。
「変えてええもんと、変えたらあかんもんがある」
その境界線を見極めることが、四代目の仕事です。

父の葛藤
父は、四代目を継いでから、葛藤していました。
「曾祖父や祖父の味を守るべきか、自分の味を作るべきか」
その答えを出す前に、父は他界しました。
私は、父の葛藤を引き継ぎました。
そして今、ようやくわかってきたことがあります。
守ることと変えることは、矛盾しません。
守るべきものを守りながら、変えるべきものを変える。
その両立が、伝統を生き続けさせます。

変えてはいけないもの
味の核心
和菓子の味には、核心があります。
餡の炊き加減、皮の配合、甘さの加減。
この核心は、変えてはいけません。
曾祖父から受け継いだ配合があります。
祖父が守ってきた炊き方があります。
この核心を変えれば、「この家の味」ではなくなります。

丁寧さ
丁寧さも、変えてはいけません。
急がず、省かず、一つ一つを丁寧に。
この姿勢は、何があっても守ります。
効率を優先すれば、丁寧さが失われます。
機械化を進めれば、手仕事が消えます。
丁寧さを失えば、和菓子ではなくなります。

神への敬意
和菓子は、神に供えるものでした。
神棚に毎朝菓子を供える。
この習慣は、変えてはいけません。
神への敬意が、職人の心を整えます。
この習慣を失えば、心が緩みます。

変えてもいいもの
包装
包装は、変えてもいいものです。
時代とともに、包装の材料も技術も変わります。
昔は竹の皮、今は紙や透明フィルム。
包装を変えても、中身は変わりません。
時代に合わせて、変えていくべきです。

見た目
和菓子の見た目も、変えてもいいものです。
色の使い方、形の整え方。
時代とともに、人々の感覚も変わります。
昭和の色彩と、令和の色彩は、違います。
見た目を時代に合わせることは、必要です。
ただし、品格を失わない範囲で。

販売方法
販売方法も、変えていいものです。
昔は店頭販売のみ。
今は、予約制、オンライン注文、配送。
販売方法を変えても、菓子の質は変わりません。
時代に合わせて、変えるべきです。

判断の基準
「丁寧さを損なわないか」
変えるかどうかの判断基準は、一つです。
「丁寧さを損なわないか」
この問いに、常に立ち戻ります。
包装を変えても、丁寧に包む心は変えない。
見た目を変えても、丁寧に作る姿勢は変えない。
販売方法を変えても、丁寧に対応する心は変えない。
丁寧さを損なわなければ、変えてもいい。

「核心を守れるか」
もう一つの基準は、「核心を守れるか」です。
味の核心、技術の核心、精神の核心。
これらを守れるなら、周辺は変えていい。
核心を守るために、周辺を変えることもあります。

私が変えたこと
営業時間
私は、営業時間を変えました。
昔は朝早くから夜遅くまで開けていました。
今は、予約制にし、営業時間を短縮しました。
理由は、丁寧さを守るためです。
長時間営業では、疲れて手が雑になります。
短時間に集中することで、丁寧さを保てます。

商品数
商品数も、減らしました。
昔は、何十種類も作っていました。
今は、数種類に絞っています。
理由は、一つ一つに集中するためです。
多くの種類を作れば、どれも中途半端になります。
数を絞ることで、質を高められます。

宣伝方法
宣伝方法も、変えました。
昔は、チラシを配り、看板を出していました。
今は、このブログだけです。
派手に宣伝せず、静かに記録を続ける。
これが、私の選択です。

私が変えなかったこと
餡の炊き方

餡の炊き方は、変えていません。
曾祖父から受け継いだ配合、火加減、タイミング。
すべて、そのままです。
機械で炊けば、効率は上がります。
しかし、味が変わります。
手で炊くことは、変えません。

神棚への供物
神棚への供物も、変えていません。
毎朝、その日に作る菓子の中で最も良いものを選び、供えます。
この習慣を、40年近く続けています。
忙しい日も、疲れた日も、必ず供えます。
この習慣が、心を整えます。

丁寧に包む
菓子を包む時の丁寧さも、変えていません。
一つ一つ、手で包みます。
機械で包めば、早く仕上がります。
しかし、心が込められません。
手で包むことは、変えません。

変えることへの抵抗
常連客の反応
変えることには、抵抗があります。
営業時間を変えた時、常連客から言われました。
「いつでも来られたのに、不便になった」
商品数を減らした時も、言われました。
「あの菓子が買えなくなった」
その言葉が、胸に刺さりました。

自分の中の迷い
自分の中にも、迷いがありました。
「本当にこれでいいのか」
「間違っているのではないか」
変えることは、勇気がいります。

それでも変える
しかし、変えなければ、守れません。
丁寧さを守るために、営業時間を変える。
質を守るために、商品数を減らす。
核心を守るために、周辺を変える。
それが、私の選択でした。

変えないことへの覚悟
効率を捨てる
変えないことは、効率を捨てることです。
手で炊けば、時間がかかります。
手で包めば、数が作れません。
効率を求めれば、機械化すべきです。
しかし、私は効率を捨てました。

利益を減らす
変えないことは、利益を減らすことです。
商品数を減らせば、売上も減ります。
営業時間を短くすれば、客も減ります。
利益を求めれば、変えるべきです。
しかし、私は利益より質を選びました。

それでも変えない
それでも、変えないものがあります。
味、丁寧さ、心。
これらは、何があっても守ります。
守ることが、四代目の責任です。

変える勇気と、変えない覚悟
変えることには、勇気がいります。
批判されるかもしれない。
失敗するかもしれない。
それでも、変える。
変えないことには、覚悟がいります。
効率を捨てるかもしれない。
利益を減らすかもしれない。
それでも、変えない。
どちらも、簡単ではありません。
しかし、どちらも必要です。

祖父の言葉
祖父は言いました。
「変えてええもんと、変えたらあかんもんがある」
その境界線を見極めることが、四代目の仕事です。
境界線は、はっきりしていません。
迷いながら、一つ一つ判断します。
失敗することもあります。
しかし、判断し続けることが、伝統を守ることです。

伝統は、生きている
伝統は、博物館の展示物ではありません。
生きています。
時代とともに、呼吸しています。
変えるべきところを変えながら、核心を守る。
その繰り返しが、伝統を生き続けさせます。

結び|守り、変え、つなぐ
守るべきものと、変えるべきもの。
その判断が、四代目の仕事です。
私は、迷いながら、判断してきました。
正解だったかどうか、わかりません。
しかし、これが私の選択です。
変えることと変えないこと。
その両方を持ちながら、次の世代へつなぐ。
それが、伝統を受け継ぐということです。
曾祖父、祖父、父が守ってきたもの。
その核心を守りながら、時代に応じる。
守り、変え、つなぐ。
その覚悟を、これからも大切にしたいと思います。

次回予告|道具を慈しむということ
次回は、道具について書きます。
木べら、銅鍋、菓子型。
長く使い込まれた道具には、魂が宿ります。
道具を大切にすることは、技を大切にすることです。
和菓子職人が道具と向き合う姿勢をお伝えします。

伝統を守ることと変えることについて、四代目として向き合ってきた葛藤と選択を記録しました。

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