私は、どら焼きを焼くたびに、父の背中を思い出します。
売れ残ったどら焼きを、何も言わず黙って処分していた、あの夜の背中です。
「甘いだけでは、商売にならん」
その一言が、今も私の基準です。
どら焼きは、日本人なら誰もが知る和菓子です。
しかし「本当にうまいどら焼き」を知っている人は、決して多くありません。
皮と餡。
たった二つの要素だからこそ、職人の腕と誠実さは、隠しようがなく味に現れます。
本稿では、和菓子屋四代目として現場に立ってきた経験から、
皮と餡の黄金比、本物の見分け方、失敗から学んだ本質をお伝えします。
どら焼きの由来|いつから日本人に愛されてきたのか
どら焼きの起源には諸説あります。
有名なのは、武蔵坊弁慶が傷の治療を受けた礼として、小麦粉を水で溶いた生地に餡を包み、銅鑼(どら)の上で焼いて渡したという説です。
この「銅鑼焼き」が転じて「どら焼き」と呼ばれるようになったと伝えられています。
現在のように「二枚の皮で餡を挟む形」が定着したのは大正時代。
東京・上野の「うさぎや」が広め、日本全国へと根付いていきました。
皮と餡の黄金比|現場で辿り着いた答え
私が辿り着いた黄金比は、
皮:餡=1:1.5 です。
これは単なる分量の話ではありません。
噛んだ瞬間、まず皮の香ばしさが立ち、
わずかに遅れて餡の甘みが追いかけてくる。
この「時間差の重なり」こそが、どら焼きの完成形だと私は考えています。
皮が多すぎれば重くなり、
餡が多すぎれば下品になります。
黄金比とは、味の配分ではなく、余韻の設計なのです。
良いどら焼きの三条件
① 皮のしっとり感
良い皮は、指で軽く押すと、ゆっくり戻ります。
パサつきは、卵配合と火加減の失敗が原因です。
② 餡の粒のほどけ方
滑らかすぎる餡は単調になり、
粗すぎる粒は雑味を生みます。
理想は、舌の上で自然にほどける粒立ちです。
③ 後味のキレ
本物のどら焼きは、甘みが口に残りません。
「もう一つ食べたい」と思わせる軽さがあります。
私が犯した失敗|焼きたて信仰の罠
四代目を継いだばかりの頃、私はこう信じていました。
「出来立てが一番うまい」
しかし、ある日、常連のお客様に言われました。
「今日は、なんだか若い味だね」
その一言で、すべてを見直しました。
焼きたてのどら焼きは、皮と餡がまだ馴染んでいません。
どら焼きは、一晩寝かせて完成します。
水分と糖分がゆっくりと回り、
口の中で一体化した食感が生まれます。
この気づきは、今も私の軸です。
量産品と本物の決定的な違い
大量流通向けの商品は、日持ち優先で設計されます。
その結果、
・皮が乾きやすい
・糖度が過剰になる
・後味が重たく残る
という傾向が生まれます。
本物のどら焼きは、驚くほど軽い。
これが最大の違いです。
私が感動した本物のどら焼き
正直に申し上げます。
同業者である私でも、心から感動したどら焼きがあります。
東京・上野「うさぎや」
皮、餡、余韻、すべてが完成形。
無駄が一切ありません。
初めて食べたとき、これが「どら焼きの教科書」だと思いました。
※店頭販売のみ。通販は行っていません。
黒松本舗 草野「黒松」
北海道産小豆の力強さと、皮との一体感が見事です。
職人仕事の誠実さが、一口ごとに伝わります。
※店頭販売のみ。
東京・浅草「亀十」
皮のふんわり感と餡の厚みのバランスが極めて高い完成度です。
職人の手仕事の温もりが、はっきりと伝わる一品。
同業者として、素直に脱帽しました。
※通販購入が可能です。
購入方法|本物を自宅で味わう
浅草「亀十」のどら焼きは、以下から購入可能です。
Amazon・楽天市場
ポイント利用・自宅配送が可能。
公式オンラインショップ
品質管理が最も安定しており、贈答用にも適しています。
※うさぎや・黒松本舗草野は店頭販売のみです。
東京・北海道へお越しの際は、ぜひ現地で味わってください。
※本記事で紹介している商品は、すべて私自身が実食し、基準として参考にしているものです。報酬の有無で評価は変えていません。
よくある質問
Q. 日持ちは?
一般的に3〜5日程度。開封後は当日中がおすすめです。
Q. 冷蔵保存は?
皮が乾くため非推奨。常温保存が最適です。
Q. 冷凍保存は可能?
可能ですが風味は落ちます。解凍後は当日中に。
Q. コンビニ商品との違いは?
日持ち設計と糖度設計が根本的に異なります。軽さと余韻が最大の差です。
まとめ|どら焼きは「人生の縮図」
どら焼きは、ただの甘い菓子ではありません。
皮は土台。
餡は中身。
人生も商いも、同じだと私は思っています。
見えない中身を、どれだけ誠実に積み上げるか。
それが、暖簾の価値です。
次回は、和菓子に宿る「季節感」について書きます。
春夏秋冬、日本人が菓子に込めてきた美意識の話です。
また、お読みいただければ幸いです。
コメント